敷地内薬局は必要なのだろうか

薬系キャリアコンサルタント 斎藤由紀夫氏

難しかった病院敷地内への薬局開設

 敷地内薬局とは、大学病院などの医療機関と同一の敷地内にある薬局をいう。言葉の意味からは院内の薬局も含まれるが、一般的には院外処方を受け付ける独立した薬局のことを指す。医薬分業による院外処方の薬局の開設は、フェンスや塀により医療機関と薬局を仕切る、公道を挟むなど医療機関から独立していなければならないなどの規制があり病院の敷地内には出店することが難しかった。

 2016年10月施行の医薬分業に関する規制改革により、お年寄りや車いすの患者の利便性を理由に、施設基準の規制が一部緩和された。病院と薬局の独立性を保つために仕切られたフェンスや塀の仕切りが不要となったが、独立性を保つために病院と薬局の建物や経営上の一体化は禁止されている。それにもかかわらず、敷地内薬局への出店は、2023年6月時点で371件と急増している。

病院の中には、院外処方を院内に戻したいという薬剤部も

 敷地内薬局については、否定的な意見も少なくない。域包括ケアを推進させる上で、地域密着型の機能が果たせない、医薬分業に逆行しているのではないかという指摘。大学病院の一部からはハイリスク薬の扱いや注射薬の調整を院内に戻したいなどの声もある。病院と薬局との適切な関係性が維持できるか懸念されているが、最終的には医師会側の意見が反映されたことで敷地内薬局が発足した。
 
 敷地内薬局の出店はどのような意味をもつのだろうか。病院を受診した患者の処方箋が多いとはいえ、調剤基本料が低く抑えられ、高い病院の土地や建物の賃借料を考えると、十分な収益が得られるとは思えない。門前から敷地内へ移っただけの利便性ではあまり必要性が感じられず、敷地内薬局としての価値を高める必要がある。

敷地内というメリットを生かした運用を

 ではどうすればよいのだろうか。薬局の課題として「連携」と「服薬フォロー」の強化が叫ばれている。大学病院などは高度な医療が必要な患者であることから、専門医療機関連携薬局として、地域の薬局のハブとしての役割を担うことはできないだろうか。病院内薬局と敷地内薬局との連携を深め、患者情報を地域の薬局へ橋渡しすることで、的確な服薬フォローができるような気がしてならない。
 
 2025年には団塊の世代が75歳になり、全員が後期高齢者になる。75歳以上は2000万人を超え、国民医療費は全体の約4割が75歳以上で占める。その数は当分増え続け、医療・介護などの社会保障費をさらに逼迫させる。現実を直視し、スピード感をもった実践的な対応が急がれる。
 
*ハブ(hub)…車輪やプロペラなどの中心にある部品や構造のこと

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